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Fin

「エンドロール感覚」というものがある





田舎道の脇に
DyDoの自動販売機がある


二輪を停めて小銭を入れ
缶珈琲を買う


ガタン、と音がする


全く当たらないルーレットが回って
全く当たらないルーレットが外れる


ポイントカードがあったことに
いつも買ってから気付く


自動販売機が「ありがとうございました」と言う
誰にでもそう言うように、同じ音声で、「ありがとうございました」と、言う


その瞬間が、幕だと思う





瞬間、世界は私と自動販売機だけになる
物語が閉じていくのがわかる


全てがこの瞬間のために用意されていたのだ、というような気がしてくる
ありもしない風呂敷が畳まれていく感覚がある


笑いたくなると同時に、泣きたくなる
ああ、ここで世界が終わるんだな、と思う


缶珈琲を飲み、ため息をつけば
いよいよ終わりにふさわしくなる


ごみ箱に空き缶を投げる


画面が暗転する


エンドロールが流れ始める





……というような感覚が「エンドロール感覚」です


普段の生活の中で、なんとなく「この瞬間がクライマックスだ」と直観するポイントがあって
「あ、今エンドロール入ったな」と感じることがあるという、それだけのお話


まあそんなことを感じたところで世界は全然終わらないので
その後も淡々と日常は続くわけですが
ふと訪れる「エンドロール感覚」を感じるのが、なんか好きなのでした